AIエージェントの例|国内外の導入事例と業務別の活用例、始め方を解説
この記事でわかること
- AIエージェントを実際の仕事で使っている国内外の事例(何を任せ、どんな数字が出ているか)
- 事例に共通する「任せやすい仕事」の特徴
- 事務・営業・顧客対応・人事・情報システムなど、業務別の活用例(想定例)
- 中小企業が事例を参考に小さく始める手順と、成果の測り方
- 事例の数字を読むときの注意点
目次
- AIエージェントの例の見方
- AIエージェントとは
- この記事で取り上げる事例
- 国内企業の事例
- 楽天グループ:開発から営業・財務まで
- Money Forward:開発の組織全体で使う
- 双葉電機:修理の割り当てをAIが担当
- ソフトバンク:全社員がAIエージェントを作る
- パナソニック コネクト:社内の生成AIからエージェントへ
- 海外企業の事例
- Klarna:顧客対応のチャットを任せる
- Freedom Forever:許可申請とメール処理
- Spotify:大量のコードの移行を任せる
- Delight.ai:AIエージェントの確認作業を自動化
- Salesforceが公表する顧客対応の数値
- 事例に共通すること
- 事例の型は大きく5つ
- 任せている仕事の特徴
- 「全部を任せる」例はない
- 確認の仕組みの作り方
- うまくいかせるために、事例から読み取れること
- 業務別の活用例(想定例)
- 総務・事務:問い合わせの一次回答(想定例)
- 経理:請求書と発注書の突き合わせ(想定例)
- 営業:商談メモの整理と提案書の下書き(想定例)
- 顧客対応:一次対応と回答案の作成(想定例)
- 人事・採用:連絡文の下書きと日程の調整(想定例)
- 情報システム:障害の調査と社内ツールの作成(想定例)
- 任せる前に整える材料
- 製造・保守:作業の割り当てと図面の照合(想定例)
- 中小企業が取り入れる手順
- 事例の規模と、自社の違い
- 最初に任せる仕事の選び方
- 進め方の5ステップ
- 1か月の試し方(目安)
- 成果の測り方
- 任せる範囲を広げる順番
- 社内で決めておくこと
- 事例に出てきたサービス
- 事例を読むときの注意点
- 数字の条件を確かめる
- 「できた」と「業務が変わった」は別
- 自社に合うかを見極める
- 情報は古くなる
- 事例の提供元に聞いておきたいこと
- よくある質問
- まとめ
「AIエージェントという言葉は聞くけれど、実際の仕事ではどう使われているのか」「自分の会社でもできそうな例が知りたい」と考えている方は多いのではないでしょうか。
AIエージェントは、ゴールを伝えると、AIが手順を考え、道具を使いながら作業を進めてくれる仕組みです。説明を読むだけでは分かりにくいので、この記事では実際に使っている会社の例を中心に紹介します。企業名や数字は、その会社や提供元の公式ページで確かめられたものだけを載せています。確かめられなかった例は載せていません。
後半では、事例を参考にした業務別の活用例(想定例)、中小企業が小さく始める手順、事例の数字を読むときの注意点も整理しました。内容は2026年10月時点の公式情報をもとにしています。想定例には必ず「想定例」と書き、実際の事例と区別しています。
AIエージェントの例の見方

事例を読む前に、AIエージェントとは何か、この記事ではどんな例を取り上げるのかを先にそろえておきます。
AIエージェントとは
Anthropicは、AIを使った仕組みを大きく2つに分けて説明しています。ひとつは、あらかじめ決めた手順の中でAIを使うもの(ワークフロー)。もうひとつは、AI自身が手順や使う道具を決めながら進めるもの(エージェント)です。
たとえば、メールが届いたら必ず「要約して担当者に送る」という流れはワークフローです。「この問い合わせに対応して」と頼まれたAIが、必要な情報を調べ、足りなければ聞き返し、結果を返すところまで進めるのがエージェントです。この記事で取り上げる例は、どちらも含みます。呼び方は会社によって異なるため、各社が使っている表現に合わせて書いています。
AIエージェントそのものの仕組みや種類は、AIエージェントとはの記事で詳しく説明しています。
この記事で取り上げる事例
公式ページで内容を確かめられた事例を、次の表にまとめました。「任せている仕事」は、各社の公式ページに書かれている内容です。
| 企業 | 任せている仕事 | おもな数字 |
|---|---|---|
| 楽天グループ | ソフトウェア開発、部門ごとの業務 | 新機能の市場投入が24営業日から5日に |
| Money Forward | ソフトウェア開発、障害対応 | API実装が2日から5時間に |
| 双葉電機 | 修理の担当者の割り当て | 割り当ての約50%をAIが完了 |
| ソフトバンク | 全社員によるAIエージェントの作成 | 250万超のエージェントを作成 |
| パナソニック コネクト | 社内の生成AI基盤の活用、エージェントの展開 | 年間78.8万時間の削減 |
| Klarna | 顧客対応のチャット | 最初の1か月で230万件の会話 |
| Freedom Forever | 許可申請の事務、メール処理 | 許可メールの約71%を人手なしで処理 |
| Spotify | コードの一括移行 | 複雑な移行で最大90%の工数削減 |
顧客対応・開発・事務と、仕事の種類が分かれています。次の章から、会社ごとに「何を任せたのか」「どんな結果が出たのか」「どこに注意が必要か」を順に見ていきます。
この記事の数字について
事例の数字は、すべて会社や提供元が自分で公表したものです。第三者が検証したものではありません。「最大」「見込み」「自己申告」といった条件がついているものは、その条件も書いています。数字の読み方は、最後の章でまとめて解説します。
国内企業の事例

まず、日本の企業の例です。開発の現場での活用が多いなか、修理の手配のような現場の仕事に使っている会社もあります。
楽天グループ:開発から営業・財務まで
楽天グループは、Anthropicの公式事例ページで紹介されています。エンジニアは「Claude Code」を使い、単体テストの作成、部品(コンポーネント)の実装、バグ修正、ドキュメント作成、AIによるコードレビューなどを任せています。
ページに書かれている主な成果は次のとおりです。
- 新機能が市場に出るまでの平均期間が、24営業日から5日に(79%短縮)
- オープンソースのライブラリ「vLLM」(約1,250万行のコード)に新しい手法を実装する作業を、約7時間、人が1行もコードを書かずに完了。参照する手法との数値の一致度は99.9%
- 「Claude Managed Agents」を使い、製品・営業・マーケティング・財務の部門向けの専門エージェントを1週間で展開。SlackやTeamsとつないで使う
7時間の作業は、担当したエンジニア本人が「その間、コードは書いていない」と述べています。ただし、これは機械学習のエンジニアが担当した、結果を数値で確かめやすい作業での話です。どの仕事でも同じ結果になるとは限りません。なお、このページには公開日の記載がありません。
Money Forward:開発の組織全体で使う
Money Forwardも、Anthropicの公式事例ページがあります。個人ユーザー1,700万人以上、法人40万社にサービスを提供している会社で、エンジニアの開発にClaude Codeを使っています。ページに書かれている数字は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 利用の広がり | エンジニアの80%が日常の業務に採用、70%超が日常的に利用 |
| コードの受け入れ率 | 90%超 |
| 作業時間の短縮 | エンジニア1人あたり週7時間(初期に使い始めた人への社内調査) |
| APIの実装 | 1つのエンドポイントが2日から5時間に。実装コードの約80%をClaude Codeが生成 |
| 新人の立ち上がり | 環境構築を含むオンボーディングが1週間から1日に |
仕組みとして目を引くのは、障害対応のためのAIエージェントを自社で作っている点です。「Sherlock」はログの検索と過去の事例の抽出で調査を助け、「Lumos」はKubernetes(システムを動かす基盤)の問題を自動で直して、5分以内に修正案(PR)を出します。
広げ方にも特徴があります。最初は少人数で試し、評価が高かったツールだけを採用しました。試験結果を社内で公開したところ、対象外のチームから200人以上のエンジニアが利用を求めたと書かれています。上から全員に配るのではなく、使った人の評価で広がった形です。
双葉電機:修理の割り当てをAIが担当
岡山県に本社を置く双葉電機は、日立グループの技術専門商社です。従業員は170名(2026年4月時点)で、規模としては中堅・中小企業にあたります。Salesforceの公式事例ページでは、エアコンなどの修理受付の手配にAIエージェントを使った例が紹介されています。
課題は、修理の受付が2002年の年間約2,500件から、2024年には約4,500件へ約1.8倍に増えたことです。夏の繁忙期には1日100件近い依頼が入りますが、対応するサービスマンは約20名で、技術者は独り立ちまでに最短1年半、通常2〜3年かかるため、すぐには増やせません。割り当ては紙の予定表と熟練者の経験に頼っており、担当者が変わると品質にばらつきが出ていました。
導入した仕組みでの役割分担は、次のとおりです。
| 役割 | AIが行うこと |
|---|---|
| 受電の整理 | 通話内容を要約し、案件(ケース)に反映する |
| 担当者の割り当て | 案件の場所・所要時間・必要なスキルを見て、約20名への割り当てを行う。複雑な案件は人が調整する |
| 社内の問い合わせ | Slack上で、作業指示書のPDFを読み取り、納入先の表記の揺れを整えて、不足情報を補う |
成果として、AIによる割り当ての完了率は約50%、1件あたりの調整時間は約5分から1分未満(80%減)、紙の使用量は年間20,000枚の削減とされています。複雑な案件は人が調整する「ハイブリッド運用」である点にも注目してください。
もうひとつ参考になるのが、この仕組みの開発を現場の担当者2名が内製していることです。2名はClaude CodeやCodexと対話しながらプログラムを書き、試験用の環境で確かめてから本番に反映しているとページに書かれています。現場の仕事をよく知る担当者が主導した例といえます。
ソフトバンク:全社員がAIエージェントを作る
ソフトバンクは、公式の社内向け記事(SB NEWS、2025年12月4日)で、全社員にAIエージェントを作ってもらう取り組みを紹介しています。2025年6月に始め、約2か月半後の8月末に250万を超えるAIエージェントができました。目標は1人100個で、ほぼ全員が期日までに達成したと書かれています。
取り組みとして、AIの基礎を学ぶeラーニング、エージェントの作り方を学ぶセミナー(連日開催)、各部門での作成の支援、作ったエージェントの社内共有が行われました。2025年9月のアンケート(回答者9,207名)では、約9割が生成AIへの理解が深まったと答え、約8割が今後の業務での活用のイメージができたと答えています。
この例で数字が示しているもの
250万という数字は「作られた数」です。この記事に書かれているのは作成数とアンケート結果で、時間短縮やコスト削減のような業務の成果を示す数字は載っていません。作った数が多いことと、業務が楽になったことは別の話です。参考にするなら、「社員がAIを自分の仕事に使う土台をどう作ったか」という点でしょう。
パナソニック コネクト:社内の生成AIからエージェントへ
パナソニック コネクトは、2026年7月29日のプレスリリースで、社内の生成AI基盤「ConnectAI」の2025年度の実績を公表しています。
| 項目 | 2025年度の実績 |
|---|---|
| 削減した時間 | 78.8万時間(前年比2倍)。年間総労働時間の3.4% |
| 利用回数 | 361万回(前年比1.6倍) |
| 1回あたりの削減時間 | 33分 |
| 月間のユニークユーザー率 | 61% |
ConnectAIは、おもに社員が質問したり文章を作ったりする「AIアシスタント」です。そのうえで同社は、2026年度から、営業支援システム(SFA)や基幹システム(ERP)などの業務データと連携して、情報の収集・分析・判断を助ける「業務データ連携型AIエージェント」の活用を広げる計画を示しています。図面と設計仕様の照合には、独自開発の「Manufacturing AIエージェント」をすでに使っており(2026年2月発表)、今後は経理や営業にも展開するとしています。
この例は、「聞く」使い方から、仕事を「頼む」使い方へ段階的に進めている点が特徴です。2030年に総労働時間の10%をAIで削減することを目標に掲げています。数字の読み方については、最後の章でもう一度触れます。
海外企業の事例

海外では、顧客対応や事務の仕事に使った例で、処理した件数や時間の数字が詳しく公表されています。ここでは、提供元や企業の公式ページで確かめられたものを紹介します。
Klarna:顧客対応のチャットを任せる
スウェーデンの決済サービス会社Klarnaは、2024年2月27日のプレスリリースで、顧客対応のAIアシスタントの最初の1か月の結果を公表しました。発表上の呼び名は「AIアシスタント」で、OpenAIのCOOのコメントも掲載されています。
| 項目 | 発表された内容 |
|---|---|
| 会話の件数 | 最初の1か月で230万件。顧客対応チャットの3分の2にあたる |
| 人の仕事量との比較 | フルタイムの担当者700人分に相当 |
| 顧客満足度 | 人の担当者と同等 |
| 再問い合わせ | 25%減 |
| 解決までの時間 | 11分から2分未満に |
| 対応範囲 | 23の市場、35以上の言語、24時間 |
| 利益への影響 | 2024年に約4,000万ドルの改善を見込む(見込みの数字) |
利益の数字は、実績ではなく見込みです。また、これは2024年2月時点の発表で、その後の運用の変化は公式の発表では確かめていません。数字は「その時点で、その会社が出したもの」として受け取るのが安全です。
Freedom Forever:許可申請とメール処理
米国で住宅用の太陽光発電を設置している会社Freedom Foreverは、Anthropicの公式事例ページで、事務作業を中心にAIエージェントを使った例が紹介されています。
任せている仕事は、次のようなものです。
- 電力会社や自治体のWebサイトでの、太陽光発電の許可申請(複数ステップの入力フォームを含む)
- 許可に関するメールの仕分け・内容の読み取り・返信の処理(検査の連絡、受領の確認、修正の依頼、承認の通知など)
- 顧客管理システム(CRM)と連携した、日程の調整やタスクの完了処理
- 約1,500件の公共料金の請求書の確認
- 1万人以上の営業担当者からの問い合わせ(電話・テキスト)への対応
ページには、次の数字が書かれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本番稼働の最初の月 | 約19,000通の許可メールを処理 |
| 人手を介さず完了した割合 | メールの約71% |
| 1回の実行にかかる費用と時間 | 0.20〜0.35ドル、約2分 |
| Web操作の自動化テスト | 40回中39回成功(社内の模擬サイトでの比較) |
| 開発期間 | ベンチマークと開発に約3週間。その2週間後に最初の本番エージェントが稼働 |
見逃せないのは、残りの約3割には人手が加わっていることです。全部をAIに任せるのではなく、AIが処理できるものは任せ、そうでないものは人に引き継ぐ形で運用されています。過去のメールを調べ直したところ、平均3週間処理されないまま残っていたものが見つかり、停滞していた案件が進んだという話も載っています。
Spotify:大量のコードの移行を任せる
音楽配信のSpotifyは、2025年7月に、Anthropicの「Claude Agent SDK」を自社の大規模なコード管理の仕組み(Fleet Management)に組み込みました。公式事例ページによると、文章で指示するだけで、コードの修正から、品質チェックを通ったプルリクエスト(変更の提案)の作成までを自動で進める「バックグラウンドのコーディングエージェント」として運用しています。
エージェントは、変更を送る前に、書式の整理・静的解析・ビルド・テストを実行して確かめます。対象は、古い書き方の置き換え、破壊的な変更を伴うフレームワークの更新、設定の更新など、数百から数千のリポジトリ(コードの置き場)に同じ変更を入れる作業です。
- 複雑なコードの移行で、エンジニアの作業時間を最大90%削減(手作業で移行用のプログラムを書く場合との比較)
- エージェントが作り、本番にマージされたプルリクエストは月650件以上
- 利用しているエンジニアは数百人
「最大90%」は、条件がよかったときの上限です。平均ではない点に注意してください。
Delight.ai:AIエージェントの確認作業を自動化
顧客対応のAIエージェントを提供しているDelight.aiは、自社のAIエージェントを本番に出す前の確認作業に、Claude Codeで作った社内ツールを使っています。Anthropicの公式事例ページによると、次の2つです。
- 会話のデバッガー:問題が起きた会話のログと指示文を取り出し、期待した動きと実際の動きを並べて表示する
- 回帰テストのツール:利用者の人物像とシナリオを指定すると、会話を自動で作って大量に試す
ページには、問題の修正から再度の本番反映までの時間が約1週間から最長1〜2日になったと書かれています。週あたりのプルリクエストの作成数も約700件から約1,600件に増えたとされています。数字は、インタビューでの本人の報告に基づくものです。
Salesforceが公表する顧客対応の数値
Salesforceは、自社のAIエージェント製品「Agentforce」を使った企業の成果を、公式ページにまとめています。顧客対応の例を、ページの記載どおりに表にしました。
| 企業 | ページに書かれた成果 | 用途 |
|---|---|---|
| Finnair | 4か月で、問い合わせの初回解決率が2倍。カスタマーサービスの質問の80%を解決 | カスタマーサービス |
| Engine | 問い合わせの50%を自動で解決、処理時間を15%短縮。12日で稼働 | 顧客対応、社内のHR・IT・財務の問い合わせ |
| Grupo Falabella | 3か月でAIエージェントの会話が3倍。問い合わせの60%を自律的に解決 | WhatsAppでの顧客対応・営業支援 |
| チャットでの問い合わせ対応を84%高速化 | 広告主向けのサポート | |
| Nexo | ケースの解決率62% | 顧客サポート |
| Safari365 | 効率化の目標15%を30%超で達成。契約から6週間で稼働 | 旅行者向けの24時間対応 |
これらは、製品を販売している会社が自社のページに載せた数字です。何を「解決」と数えるか、どの期間の平均かは企業ごとに違うため、会社同士の数字を横に並べて優劣をつけることはできません。「どんな仕事で、どの程度の自動化が見込まれるのか」という目安として見るのが適切です。
事例に共通すること

ここまでの事例を並べると、任せている仕事にいくつかの共通点があります。自社で何を任せるかを決めるときの手がかりになります。
事例の型は大きく5つ
任せ方を整理すると、事例は次の5つの型に分けられます。自社の仕事がどの型に近いかを考えると、参考にする事例を選びやすくなります。
| 型 | 内容 | この記事の事例 |
|---|---|---|
| 顧客対応型 | お客様からの問い合わせに一次対応する。人は例外と最終判断を受け持つ | Klarna、Finnair、Engine |
| 事務処理型 | メールや書類の内容を読み取り、分類・入力・確認までを進める | Freedom Forever |
| 開発型 | プログラムの作成・修正・移行を進める。テストで確かめる | 楽天、Money Forward、Spotify、Delight.ai |
| 現場手配型 | 場所・時間・スキルなどの条件から、担当者や順番の案を決める | 双葉電機 |
| 全社基盤型 | 社員が自分の仕事にAIを使えるよう、研修と基盤を整える | ソフトバンク、パナソニック コネクト |
中小企業が最初に取り入れやすいのは、事務処理型と顧客対応型(回答案の作成)です。特別な開発をしなくても、既製のサービスで試せるためです。現場手配型は、双葉電機のように、手配のルールを言葉にできる会社に向いています。
任せている仕事の特徴
| 共通点 | 事例での現れ方 |
|---|---|
| 手順の多い繰り返し作業 | Freedom Foreverの許可メール処理、Spotifyのコード移行、双葉電機の割り当て |
| 結果を確かめやすい | Spotifyはテストとビルドで検証、楽天の7時間の作業は数値の一致度で確認 |
| 人に引き継ぐ線がある | 双葉電機は複雑な案件を人が調整、Freedom Foreverはメールの約3割に人手が加わる |
| 材料(データ)が整っている | 双葉電機は通話内容や案件の情報、Money Forwardはログや過去の障害の記録 |
| 現場の担当者が主体 | 双葉電機は現場の2名が内製、Money Forwardは使った人の評価で広がった |
Anthropicのエンジニアリングの記事でも、AIエージェントが向く仕事として、顧客サポートとプログラミングが挙げられています。顧客サポートは、外部の情報の参照や返金のような操作が必要で、成功したかどうかが測りやすいため。プログラミングは、自動のテストで答えを確かめながら進められるためです。事例の多くが、この2つに偏っているのも自然です。
「全部を任せる」例はない
紹介した事例には、AIに全部を任せているものはありません。AIが進める部分と、人が確認する部分を分けていることが共通しています。
- 双葉電機:複雑な案件は人が調整する
- Freedom Forever:AIだけで完了できないメールは、人に引き継ぐ
- Spotify:書式・静的解析・ビルド・テストを自分で実行して確かめてから、変更を出す
- パナソニック コネクト:まず質問・文書作成から広げ、業務データにつなぐ段階を踏む
Anthropicの記事も、AIに自由度を与えるほどコストが増え、誤りが積み重なるおそれがあると説明し、最も単純な方法から始めて、必要なときだけ複雑にすることを勧めています。まず、決まった手順の中でAIを使うところから始めても構いません。
事例から見える、任せやすい仕事の条件
「手順がある程度決まっている」「結果が正しいかを確かめられる」「間違えたときにすぐ戻せる」「判断が必要なときに人へ渡す線を引ける」。この4つがそろう仕事から始めると、事例と同じ形で進めやすくなります。
確認の仕組みの作り方
事例では、AIの出力を確認する方法も、仕事に合わせて作られています。確認の方法は、次の5つに分けられます。
| 確認の方法 | 内容 | 向く仕事 |
|---|---|---|
| 自動のテストで確かめる | 書式・静的解析・ビルド・テストを通ったものだけを人に出す(Spotify) | プログラムの作成・移行 |
| 数値を参照と照らす | 既存の手法の結果と数値を比べる(楽天の7時間の作業) | 計算や集計の結果 |
| 条件で人に引き継ぐ | 複雑な案件や、AIだけで完了できないものを人に回す(双葉電機、Freedom Forever) | 顧客対応、手配、事務 |
| 全件を人が見る | 回答案や下書きを、人が読んでから出す | 社外に出す文書、個別の事情が絡む対応 |
| 一部を抜き取って見る | 一定の割合を人が見て、間違いの傾向を確かめる | 件数が多く、1件の影響が小さい仕事 |
仕事によって、組み合わせて使います。たとえば顧客対応なら、はじめは全件を人が見て、間違いが少ない種類から抜き取りに切り替える、という進め方ができます。確認の方法を先に決めておけば、「どこまで任せるか」を迷いにくくなります。
確認しやすさが、任せやすさを決める
事例の多くが開発や顧客対応に集まっているのは、結果が正しいかを確かめやすいからです。自社の仕事でも、確認の方法が思いつくものほど、AIに任せやすくなります。
うまくいかせるために、事例から読み取れること
事例のページには、成果とあわせて、運用で工夫している点も書かれています。うまくいかせるためのヒントとして整理します。
- AI自体の動作も確かめる:Delight.aiは、AIエージェントの会話を自動で大量に試す回帰テストの仕組みを、Claude Codeで作りました。AIの出力は毎回同じとは限らないため、変更のたびに動作を確かめる仕組みが役に立ちます
- 小さく試してから広げる:Money Forwardは、少人数での試験で評価の高かったツールだけを採用しています。全員に配る前に、使った人の評価を確かめています
- 過去の取りこぼしを見直す:Freedom Foreverは、過去のメールを処理し直したことで、約3週間放置されていた案件が見つかりました。AIの導入は、人手が足りず後回しになっていた仕事を掘り起こす機会にもなります
- 最も単純な方法から始める:Anthropicの記事は、自由度の高いAIエージェントは遅さと費用の増加、誤りの積み重なりを伴うことがあると述べています。決まった手順で足りる仕事は、手順を決めてAIを使うほうが安定します
どれも特別な技術ではなく、確認・試験・段階的な拡大という基本の積み重ねです。事例の会社は、AIの性能だけでなく、確認の方法と広げ方に工夫をしています。
業務別の活用例(想定例)

ここからは、実際の事例ではなく想定例です。前の章の事例を参考に、中小企業の業務に置き換えるとどうなるかを、部署ごとに整理しました。数字は載せていません。自社で試して、時間や件数を測ってみてください。
| 部署 | 任せる仕事(想定例) | 人が確認すること | 近い事例 |
|---|---|---|---|
| 総務・事務 | 社内の問い合わせの一次回答、申込書の内容確認 | 回答の根拠となる規程、例外の判断 | 双葉電機(社内問い合わせのケース化) |
| 経理 | 請求書と発注書の突き合わせ、差異の一覧化 | 差異の理由、支払いの承認 | Freedom Forever(請求書の確認) |
| 営業 | 商談メモの整理、提案書や見積書の下書き | 金額・条件、社外に出す前の最終確認 | 楽天(営業向けエージェント) |
| 顧客対応 | よくある問い合わせへの一次対応、回答案の作成 | クレーム・例外の対応、返金などの確定 | Klarna、Finnair |
| 人事・採用 | 応募者への連絡文の下書き、面接日程の候補出し | 選考の判断、合否の連絡 | Freedom Forever(メールの仕分けと返信) |
| 情報システム | 障害の調査の補助、社内ツールの作成 | 本番への反映、権限の設定 | Money Forward、Delight.ai |
| 製造・保守 | 作業の割り当て案、図面と仕様の照合 | 複雑な案件、安全に関わる判断 | 双葉電機、パナソニック コネクト |
表の「人が確認すること」の列が、事例で見た「人に引き継ぐ線」にあたります。ここを先に決めておくと、任せる範囲が決まりやすくなります。
総務・事務:問い合わせの一次回答(想定例)
総務には、「有給の申請方法は」「出張の精算はいつまでか」といった、規程を見れば分かる質問が毎日のように届きます。想定例として、規程集やマニュアルをAIに読ませ、社内のチャットに届いた質問に、根拠のページを添えて一次回答させる形が考えられます。
双葉電機の事例では、社内の問い合わせをSlack上で自動でケース化していました。この仕組みの「受けた内容を整理して、必要な情報を補い、記録に残す」という部分は、総務の問い合わせ窓口にも置き換えやすい使い方です。
- 任せる部分:質問の内容の整理、規程からの該当箇所の提示、回答案の作成
- 人が確認する部分:規程にない例外の質問、個別の事情が絡む相談
- 準備するもの:最新の規程・マニュアル、よくある質問と回答の一覧
経理:請求書と発注書の突き合わせ(想定例)
取引先から届いた請求書と、社内の発注書や納品書の内容を照らし合わせる作業は、金額や数量の確認が中心で、毎月まとまった件数があります。AIに突き合わせの一覧を作らせ、一致しないものだけを人が見る形にすれば、確認の中心が「差異の理由を考えること」に移ります。
- 材料をそろえる請求書のPDFと、発注・納品の記録(Excelや販売管理システムから書き出したCSV)を、同じフォルダに置きます。
- 突き合わせさせる「請求書と発注記録を、取引先・品目・数量・金額で突き合わせて、一致しない行を一覧にして」と依頼します。
- 一致しない行を人が見る単価の変更、分納、請求漏れなど、理由を人が確認して判断します。
- 承認と支払いは人が行う支払いの承認や振込の操作は、AIには任せません。
Freedom Foreverは、約1,500件の公共料金の請求書の確認に、AIエージェントを使っていました。件数が多く、確認の基準が決まっている仕事は、AIの得意な形です。
依頼文の例は、次のようになります。
「請求書」フォルダのPDFと、「発注記録」フォルダのCSVを、取引先名・品目・数量・金額で突き合わせてください。一致しない行だけを一覧にして、「差異の種類(単価・数量・請求漏れの可能性など)」を列に書いてください。判断できないものは、無理に推測せず「要確認」としてください。
最後の「判断できないものは要確認とする」という一文が大切です。AIが推測で埋めてしまうことを防ぎ、人が見るべきものを明確にできます。
営業:商談メモの整理と提案書の下書き(想定例)
営業では、商談のあとに、メモを整理して社内のシステムに入力し、提案書や見積書の下書きを作る作業が発生します。想定例として、商談のメモや録音の文字起こしを渡し、「会社名・担当者・課題・次にやること・期限」を表にまとめさせ、提案書のたたき台まで作らせる使い方があります。
「商談メモ」フォルダの今週分を読んで、案件ごとに「会社名・担当者・課題・次にやること・期限」の表を作ってください。課題が共通している案件があれば、最後にまとめてください。そのうえで、A社向けの提案書の構成案を、課題・解決策・進め方・費用の順で作ってください。
金額や条件、納期のように社外に出す情報は、必ず担当者が確認します。AIが作るのは「下書き」までとし、提出する前に人が目を通す流れにしておきます。
顧客対応:一次対応と回答案の作成(想定例)
顧客対応は、事例が最も多い分野です。KlarnaやFinnairのように、問い合わせの多くをAIが解決する例があります。中小企業では、チャットの自動応答まで進める前に、回答案をAIが作り、担当者が確認して送る形から始めるのが現実的です。
- よくある質問を集める過去のメールや電話の記録から、頻出する質問を20〜30件ほど拾い、正しい回答とあわせて一覧にします。
- 回答案を作らせる届いた問い合わせの文面と一覧を渡し、「一覧にある内容なら、それに沿って回答案を作る。一覧にない内容は、担当者に確認が必要と書く」と指示します。
- 担当者が確認して送る回答案を読み、必要なら直してから送信します。
- 見直す直した箇所を記録し、一覧や指示に反映します。
この形なら、誤った回答がそのまま顧客に届くことを防げます。確認作業を続けるなかで、AIの回答が安定している種類の問い合わせから、少しずつ確認を減らしていけます。
顧客の情報を渡す前に
問い合わせには、氏名・住所・注文の内容など個人情報が含まれます。AIに渡してよい情報の範囲と、使うサービスの情報の扱い(入力内容を学習に使うかどうか)を、先に確認してください。取り決めの考え方は、生成AIの社内ルールの記事で解説しています。
人事・採用:連絡文の下書きと日程の調整(想定例)
採用の担当者は、応募者への連絡文の作成、面接の日程調整、面接官への共有など、定型の連絡を多く抱えています。想定例として、応募者の情報と面接官の空き時間を渡し、連絡文の下書きと日程の候補を作らせる形があります。
選考の判断や合否の連絡は、人が行います。AIは「連絡の下書きと日程の候補を作る」までに絞ります。応募者の個人情報を扱うため、前の項目と同じく、情報の扱いを先に確認しておく必要があります。
情報システム:障害の調査と社内ツールの作成(想定例)
Money Forwardの事例のように、障害の調査にAIを使う例があります。ログを検索し、過去に似た障害がなかったかを探して、調査の手がかりを示すものです。小さな会社であれば、社内の業務ツールの作成や修正にClaude Codeのようなツールを使う例が、より身近でしょう。
双葉電機では、修理の手配を担当する現場の2名が、AIと対話しながら自分たちの仕事に合った仕組みを作りました。ただし本番の環境に反映する前の確認と、権限の管理は、人が責任を持って行う必要があります。
任せる前に整える材料
どの部署でも、AIに渡す材料が整っているかどうかで結果が大きく変わります。事例の会社も、規程・過去の記録・案件の情報といった材料を使っています。任せる前に、次の点を確認してください。
| 材料 | 確認すること | 整える方法 |
|---|---|---|
| 規程・マニュアル | 最新か。部署によって内容が食い違っていないか | 古い版を外し、1つの場所にまとめる |
| 過去の記録 | 同じ種類の対応や案件が、探せる形で残っているか | ばらばらのメモやメールを、一覧表やフォルダにまとめる |
| 判断の基準 | 「こういうときは、こうする」が言葉になっているか | 熟練者に聞き取り、箇条書きにする |
| データの形式 | PDF・Excel・CSVなど、AIが読める形か | 紙は取り込み、表記の揺れを整える |
双葉電機の事例でも、割り当ては「紙の予定表と熟練者の経験」に頼っていた状態から、熟練者の判断を仕組みに落とし込むことで進んでいます。AIの導入は、熟練者の頭の中にある基準を言葉にする機会にもなります。
製造・保守:作業の割り当てと図面の照合(想定例)
双葉電機の例は、修理の担当者の割り当てでした。案件の場所・所要時間・必要なスキルを考え合わせて担当者を決める作業は、製造業や設備の保守、建設、物流など、人や車両を割り当てる多くの現場にあてはまります。
パナソニック コネクトの「Manufacturing AIエージェント」は、図面と設計仕様の照合に使われています。図面と仕様書の食い違いを探す作業は、一件ずつ目で追うと時間がかかります。AIが候補を挙げ、人が最終判断をする形です。
想定例として、設備の修理や工事を請け負う従業員30名ほどの会社を考えます。電話やメールで受けた依頼を、担当者に割り振る流れは、次のようになります。
- 依頼を整理する電話の内容やメールを、AIが「場所・設備の種類・症状・希望日」に整理して、案件の一覧に追加します。
- 候補を出す担当者のスキルと予定、場所の近さをもとに、割り当ての候補を2〜3人分出します。
- 人が決める配車の担当者が、候補と理由を見て決めます。特殊な設備や急ぎの案件は、人が判断します。
- 結果を残す決まった割り当てと、候補から変えた理由を記録し、次回の候補の精度を上げる材料にします。
はじめから自動で割り当てを確定させるのではなく、候補を出す段階で始めます。候補と人の判断が一致する割合を数えて、高いものから任せる範囲を広げていけば、双葉電機のような形に近づけます。
中小企業が取り入れる手順

紹介した事例には、楽天やSpotifyのように大きな会社が多く含まれています。それでも、双葉電機のように従業員170名の会社が、現場の担当者2名で仕組みを作った例もあります。ここでは、事例から読み取れることをもとに、中小企業が小さく始める手順を整理します。
事例の規模と、自社の違い
大企業の事例をそのまま真似する必要はありません。違いを押さえたうえで、取り入れられる部分だけを借りると考えるのが現実的です。
| 事例で見えた点 | 中小企業での考え方 |
|---|---|
| 全社員向けの研修や、全社展開(ソフトバンク、パナソニック コネクト) | 全社に広げる前に、1つの部署の1つの仕事から始める |
| 専用の基盤やエージェントを自社で作る(Money Forward、Spotify) | 最初は既製のサービスで試す。作り込むのは、効果が見えた後でよい |
| 顧客対応を大量にAIが処理する(Klarna) | 問い合わせの件数が少なければ、回答案の作成と担当者の確認から始める |
| 現場の担当者が主導する(双葉電機) | 業務をよく知る担当者を中心にして、経営者が時間と権限を与える |
最初に任せる仕事の選び方
最初の仕事は、次の4つの質問に「はい」と答えられるものを選びます。事例に共通していた特徴を、確認の形にしたものです。
| 質問 | 「はい」の場合 | 「いいえ」の場合 |
|---|---|---|
| 毎週・毎月くり返している仕事か | 効果を測りやすく、仕組みを作る価値がある | 単発の仕事は、チャットで都度頼むほうが早い |
| 手順や判断の基準を、言葉で説明できるか | AIに指示として渡せる | 先に、人の間で基準をそろえる |
| できあがりが正しいか、人が確かめられるか | 確認の仕組みを作れる | 確認できない仕事は、任せない |
| 間違えたときに、すぐ直せるか | 小さく試せる | 送金・発注・契約など、取り消せない操作は人が行う |
迷ったときは、次のような仕事から選ぶと、失敗したときの影響が小さく、効果も見えやすくなります。
- 社内向けの文書の下書きや、議事録の整理
- Excelやメールからの転記、一覧づくり
- 問い合わせへの回答案の作成
- 請求書や申込書の内容の確認
進め方の5ステップ
- 仕事を1つに絞る前の表の4つの質問に当てはまる仕事を、1つだけ選びます。一度に複数の仕事を始めると、何が効いたのか分からなくなります。
- 今のやり方と所要時間を書き出す誰が、何を見て、どんな順で作業しているか、1件あたり何分かかるかを書きます。あとで比べる基準になります。
- 人が確認する点を決めるAIが出したものを、誰が、何を見て確かめるかを決めます。双葉電機のように、複雑な案件は人が引き継ぐ線も決めておきます。
- 小さく試す実際のデータの一部(過去の分や、コピーしたもの)を使って、数十件で試します。本番の業務に入れるのは、結果を確かめたあとです。
- 測って、広げるか決める1か月ほど試し、時間や件数、手直しの量を比べます。効果が見えた仕事から、範囲を広げます。
1か月の試し方(目安)
| 期間 | やること | 確認すること |
|---|---|---|
| 1週目 | 仕事を選び、今のやり方と所要時間を記録する。使うサービスを決め、試す | AIが使える材料(データ・規程)がそろっているか |
| 2週目 | 過去のデータで試し、依頼文や指示を直す | 間違いの傾向、手直しが必要な箇所 |
| 3週目 | 実際の仕事の一部で使い、担当者が確認しながら進める | 確認にかかる時間、見逃しやすい間違い |
| 4週目 | 時間と件数、手直しの量を比べ、続けるか・広げるかを決める | 効果が出た条件と、出なかった条件 |
成果の測り方
効果は「時間が減った」という感覚だけでなく、数字で記録しておくと、続けるかどうかの判断がしやすくなります。事例でも、時間や件数、手直しの量などが指標に使われています。
| 指標 | 測り方 | 事例での例 |
|---|---|---|
| 1件あたりの作業時間 | AIを使う前と後で、同じ種類の仕事を比べる | 双葉電機の割り当て調整(約5分から1分未満) |
| AIだけで完了した割合 | 人の手直しなしで完了した件数 ÷ 全件数 | 双葉電機の約50%、Freedom Foreverの約71% |
| 手直しの量 | 人が直した件数や、直した箇所の数 | Money Forwardのコード受け入れ率(90%超) |
| 確認にかかる時間 | 人がAIの結果を確かめるのに使った時間 | (事例には記載なし。自社で測る) |
| 処理した件数 | 1週間・1か月あたりの処理件数 | Klarnaの会話数、Spotifyの月間のプルリクエスト数 |
「確認にかかる時間」も数える
AIが作業を早くしても、人が確認に同じだけ時間を使えば、全体の時間は減りません。作業の時間と確認の時間を分けて記録しておくと、「AIの出力は速いが確認が重い」「確認がほぼ不要になった」といった状況を判断できます。
任せる範囲を広げる順番
試した仕事がうまくいったら、任せる範囲を段階的に広げます。事例も、いきなり全部を任せたのではなく、確認を続けながら範囲を広げています。
| 段階 | AIが行うこと | 人が行うこと | 次に進む目安 |
|---|---|---|---|
| 1. 下書き | 文書や回答案、一覧表の下書きを作る | 全件を読み、直して使う | 直す箇所が少なく、傾向が安定している |
| 2. 候補の提示 | 割り当てや分類の候補と、理由を出す | 候補を見て、決定する | 候補と人の判断が高い割合で一致する |
| 3. 一部を任せる | 条件に合う種類の仕事を最後まで処理する | 例外と、一部の抜き取りを確認する | 抜き取りで見つかる誤りが少ない |
| 4. 範囲を広げる | 対象の種類や件数を増やして処理する | 定期的に結果を見直す | (継続して見直す) |
双葉電機の「割り当ての約50%をAIが完了する」状態も、残りの約半分は人が調整するという前提です。全件を任せることを目指さず、任せられる種類を見つけて増やしていくほうが、運用は安定します。
社内で決めておくこと
小さく試す段階でも、次の項目は先に決めておくと、あとで困りません。大がかりな規程を作る必要はなく、1枚のメモにまとめれば足ります。
| 項目 | 決める内容 | 例 |
|---|---|---|
| 渡してよい情報 | AIに渡してよいものと、渡さないもの | 顧客の氏名・住所は渡さない。社内規程は渡してよい |
| 任せる範囲 | AIだけで完了してよいことと、人の承認が必要なこと | 下書きまではAI。送信と支払いは人が行う |
| 確認する人 | 出力を確かめる担当者と、その時間 | 担当者Aが毎日、午前中に確認する |
| 記録の残し方 | 何を頼み、何が返り、どう直したかの記録 | 直した箇所を一覧表に残す |
| 問題が起きたとき | 誤りに気づいたときの止め方と連絡先 | 使用を止める人と、お客様への連絡の担当を決める |
情報の扱いについては、使うサービスによって、入力した内容を学習に使うかどうかなどの取り決めが異なります。サービスごとの設定を確認したうえで、社内のルールにまとめてください。
事例に出てきたサービス
事例でどんなサービスが使われていたかを、ページの記載をもとに整理しました。どれが優れているかを示す表ではありません。提供元によって公開されている事例が違うため、事例の数が多いからといって、そのサービスが良いとは限りません。
| サービス | 事例での使われ方 |
|---|---|
| Claude Code | 楽天・Money Forward・双葉電機で、開発や社内ツールの作成に使用 |
| Claude Agent SDK | SpotifyやFreedom Foreverが、自社のエージェントを組む土台として使用 |
| Claude Managed Agents | 楽天が、部門ごとの専門エージェントの展開に使用 |
| Agentforce | 双葉電機の割り当て、Finnairなどの顧客対応で使用 |
| Codex | 双葉電機の担当者が、Claude Codeとあわせて開発に使用 |
非エンジニアの担当者が、まず手元のファイルを使って試す場合は、プログラミングを前提としないClaudeのアプリの機能から始める方法もあります。Claude Coworkの記事では、仕事を任せる使い方を、画面の操作とあわせて解説しています。自社でエージェントを組む場合の選択肢は、AIエージェントの作り方の記事で整理しています。
事例を読むときの注意点

事例は参考になりますが、書かれている数字をそのまま自社に当てはめると、期待と結果がずれることがあります。ここまで紹介した事例を例に、数字を読むときのポイントをまとめます。
数字の条件を確かめる
| 見るポイント | この記事の事例での例 |
|---|---|
| 誰が公表した数字か | すべて、企業または提供元が自分で公表した数字。第三者の検証は確認していない |
| 「最大」や「見込み」ではないか | Spotifyの「最大90%」は上限、Klarnaの約4,000万ドルは見込み |
| 何を数えた数字か | ソフトバンクの250万は「作成数」で、業務の成果ではない |
| どの範囲・期間の数字か | Klarnaの230万件は最初の1か月、Money Forwardの週7時間は初期の導入者への調査 |
| 誰の作業の話か | 楽天の7時間は、機械学習のエンジニアの1件の作業での結果 |
| 比べた相手は何か | Spotifyの90%は「手作業でプログラムを書く場合」との比較 |
| 算定の前提が書かれているか | パナソニック コネクトの削減時間は、算定式や前提が発表には詳しく書かれていない |
パナソニック コネクトの数字は、例として分かりやすいので補足します。発表された削減時間78.8万時間を、利用回数の361万回で割ると、1回あたり約13分になります。一方で、発表には「1回あたり33分」とあります。集計の対象や定義が異なる可能性がありますが、発表文からは判断できません。削減時間は、使った人の申告や推計をもとにしていることが多いため、算定の前提を確認してから数字を使うのが安全です。
「できた」と「業務が変わった」は別
AIエージェントを導入した、エージェントを作った、という話と、仕事が楽になった、という話は別のものです。ソフトバンクの250万という数字は、全社員がAIに触れて自分のエージェントを作るという土台づくりの成果で、時間の削減などは示されていません。
事例を見るときは、「何件作ったか」より「何がどれだけ変わったか」が書かれているかを見てください。また、自社で試すときも、導入したかどうかではなく、1件あたりの時間や、人が直した量が変わったかどうかで判断します。
自社に合うかを見極める
数字の条件に加えて、事例の会社と自社の違いも確認します。
- 材料の違い:Money Forwardの調査の仕組みは、過去の事例の記録を探して使います。自社に記録が残っていなければ、まず記録を整える必要があります
- 人材の違い:楽天やSpotifyには、AIの扱いに慣れたエンジニアが多数います。自社の体制で運用できる仕組みか確かめます
- 件数の違い:Klarnaは1か月で230万件の会話です。件数が少ない会社では、自動化の効果が小さい場合があります
- 求める正確さの違い:開発の仕事は、テストで答え合わせができます。経理や契約のように、一件の誤りの影響が大きい仕事は、確認の手間が大きくなります
情報は古くなる
AIエージェントの分野は、サービスの機能や料金、会社の取り組みが短い期間で変わります。この記事の事例も、公表された時点の内容です。Anthropicの事例ページのように、公開日が書かれていないものもあります。
導入を検討するときは、事例で使われているサービスの現在の機能・料金・利用条件を、提供元の公式ページで確かめてください。事例の会社が今も同じ使い方をしているとは限りません。
事例の提供元に聞いておきたいこと
自社への導入を検討するときは、事例の担当者や提供元に、次の点を確かめておきましょう。
- 数字の前提何を、いつからいつまで、誰が測った数字か。比べた相手は何か。
- 人の確認の範囲AIの出力を、誰が、どの程度確認しているか。確認の時間は数字に含まれているか。
- うまくいかなかった点最初に想定と違ったことは何か。どう直したか。
- 運用の体制導入後に、誰が、どれくらいの時間をかけて見直しているか。
- 費用の内訳サービスの利用料、準備や開発の費用、確認や運用の人手を、それぞれ分けて教えてもらう。
事例が少ない領域もある
公開されている事例は、顧客対応と開発に偏っています。経理・人事・製造などは公式に数字が公開されている例が少なく、この記事の想定例も、事例に近い仕事をもとにした見立てです。自社で試して、結果を測りながら判断してください。
よくある質問
AIエージェントの例には、どんなものがありますか?
この記事では、開発(楽天、Money Forward、Spotify)、現場の手配(双葉電機)、顧客対応(Klarna、Finnair)、事務(Freedom Forever)、全社での活用(ソフトバンク、パナソニック コネクト)の例を紹介しました。いずれも、公式ページで確かめられたものです。
中小企業でも、AIエージェントを使えますか?
使えます。従業員170名の双葉電機は、現場の担当者2名が、修理の手配の仕組みをAIと対話しながら作りました。最初から大きな仕組みを作る必要はなく、1つの仕事を小さく試すところから始められます。
AIエージェントで、人の仕事はなくなりますか?
紹介した事例では、AIが全部を処理しているものはなく、複雑な案件や判断が必要なものは人が対応しています。双葉電機は複雑な案件を人が調整し、Freedom Foreverはメールの約3割に人手が加わっています。仕事の中身が、確認や判断に寄っていくと考えるほうが実態に近いでしょう。
事例の数字は、そのまま自社で再現できますか?
そのままは期待しないでください。事例の数字は、その会社の仕事の量、材料、体制のもとで出たものです。まず1つの仕事で試し、1件あたりの時間や、人が直した量を測って判断します。
どんな仕事から任せるのがよいですか?
手順がある程度決まっていて、結果を人が確かめられ、間違えてもすぐ直せる仕事です。社内文書の下書き、転記や一覧づくり、問い合わせへの回答案の作成などが始めやすい例です。送金や契約のような取り消せない操作は、人が行います。
プログラミングができなくても使えますか?
使えます。双葉電機の例は、現場の担当者がAIと対話しながら開発した例です。また、Claudeのアプリでファイルを使って仕事を頼む使い方なら、プログラミングは必要ありません。社内の重要なシステムに関わる部分は、専門の人に確認してもらうと安心です。
費用はどのくらいかかりますか?
事例の記事には、利用料の詳しい金額はほとんど書かれていません。Freedom Foreverは、許可メールの処理1回あたりが0.20〜0.35ドルと書かれていますが、これは仕組みの実行にかかる費用で、開発や運用の人手は含まれていません。費用の考え方は、AIエージェント導入の進め方の記事で整理しています。
社内のデータをAIに渡しても大丈夫ですか?
サービスと契約によって、入力した内容の扱いが異なります。個人情報や社外秘の情報を渡す前に、使うサービスの情報の扱いと、社内で決めたルールを確認してください。渡してよい情報の範囲は、先に社内で決めておきます。
AIエージェントとチャットボットの違いは何ですか?
チャットボットは、あらかじめ用意した回答や、質問への返答が中心です。AIエージェントは、必要な情報を調べたり、システムを操作したりしながら、仕事を最後まで進める点が違います。Klarnaのように「AIアシスタント」と呼ぶ会社もあり、呼び方は統一されていません。
公式の事例を、自分で探すにはどうすればよいですか?
AnthropicやSalesforceなどの提供元のサイトには、顧客事例のページがあります。企業のプレスリリースや社内向けのニュース記事に載っていることもあります。数字を使うときは、第三者のまとめ記事ではなく、元の公式ページで内容を確かめてください。
日本の企業の事例は、どのくらいありますか?
開発や大企業の事例が中心で、中小企業の事例は多くありません。この記事で取り上げたもののうち、双葉電機は従業員170名の会社です。中小企業の事例は、公式ページで確かめられたものに限ると、まだ少ないのが現状です。
Klarnaのような顧客対応の自動化は、自社でもできますか?
問い合わせの件数が多く、回答の基準が決まっている会社なら、取り入れられる可能性があります。ただし、はじめから自動で返信するのではなく、AIが回答案を作り、担当者が確認して送る形から始めるのが安全です。誤りが少ない種類の問い合わせから、確認を減らしていきます。
事例の仕組みは、自社の担当者だけで作れますか?
仕事の内容によります。文書の下書きや回答案の作成は、既製のサービスで担当者が始められます。システムとの連携や、本番の環境に関わる部分は、専門の人に相談したほうが確実です。双葉電機も、現場の担当者が主導しつつ、手配の仕組みという範囲を絞って取り組んでいます。
導入で失敗しないために、気をつけることは何ですか?
仕事を1つに絞って小さく試すこと、人が確認する点を先に決めること、効果を数字で測ることの3点です。事例の会社も、確認の方法と広げ方に工夫をしています。最初から全社に広げたり、全件を任せたりしないほうが安全です。
社内の人に、AIエージェントの例を説明するときのコツはありますか?
有名な会社の事例より、自社の仕事に近い例を選ぶと伝わりやすくなります。双葉電機の「修理の割り当て」や、Freedom Foreverの「メールの仕分け」のように、仕事の内容が具体的に分かる例を選び、「人が確認する部分」もあわせて説明すると、不安を抑えられます。
まとめ
この記事のまとめ
- AIエージェントの例は、開発・顧客対応・事務・現場の手配など、手順が多くて結果を確かめやすい仕事に集まっている
- 国内では、楽天グループ、Money Forward、双葉電機、ソフトバンク、パナソニック コネクトが公式に事例を公表している
- どの事例も全部をAIに任せてはおらず、複雑な案件や判断は人に引き継いでいる
- 中小企業は、毎週くり返す仕事を1つ選び、確認する点を決めて、1か月ほど小さく試す
- 事例の数字は自己申告で、「最大」「見込み」「作成数」などの条件がある。そのまま自社の期待値にしない
- 自社で試すときは、1件あたりの時間、AIだけで完了した割合、確認にかかる時間を測る
AIエージェントは、事例を読むだけでは自社に合うかどうかが分かりません。まず小さな仕事で試して、時間と手直しの量を測るのが近道です。
INTERCREATE JAPANでは、Claude CodeやCodexなどの導入と、任せる仕事の選び方、確認の仕組みづくり、社内のルールの整備までをお手伝いしています。どの仕事から始めればよいか迷うときは、お気軽にご相談ください。
参考・出典
- Rakuten(Anthropic 顧客事例)
- Money Forward(Anthropic 顧客事例)
- 双葉電機(Salesforce 顧客事例)
- 2カ月半で250万超のAIエージェント(SoftBank SB NEWS)
- ConnectAI 2025年度の実績(パナソニック コネクト)
- Klarna AI assistant handles two-thirds of customer service chats in its first month(Klarna)
- Freedom Forever(Anthropic 顧客事例)
- Spotify(Anthropic 顧客事例)
- Delight.ai(Anthropic 顧客事例)
- Agentforceの成果(Salesforce)
- Building effective agents(Anthropic)
INTERCREATE JAPAN